イノベーションストーリー

Innovation Story

先輩×後輩対談③

王子薬用植物研究所株式会社

製紙原料の安定確保のため、長年にわたる林木育種研究で培った知識や技術、広大な社有林に眠る森林資源など、王子グループならではの資産を有効活用し、医薬品や化粧品、食品などに利用できる機能性植物を生産・販売することを目的に設立された「王子薬用植物研究所株式会社」。
北海道で長年にわたって開発を続けた研究が、イノベーション推進本部から花開こうとしています。

S.S

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王子薬用植物研究所株式会社

Y.H

Y.H

王子薬用植物研究所株式会社

薬用植物のサステナブルな生産方法を確立し
新たな価値創造で医薬品や化粧品、食品に展開。

10年の奮闘の末に 日本初の「甘草の大規模栽培」に成功

目指している事業内容や、そのために普段どのような 研究をしているか教えてください。

S.S S.S
王子グループが植林事業で培った技術や広大な社有林資源をベースに、漢方薬や化粧品、食品などの原料となる薬用植物を栽培し、さらに加工まで行って新たな製品開発を行う事業です。会社設立以前、この地に研究室を開設した10年以上前から主に取り組んでいるのは、甘草の栽培です。甘草はその名のとおり噛むと甘みのある多年生の植物で、漢方薬の約7割に配合されているとても有用な薬用植物です。また砂糖の甘さとは少し違っていて、後から味わいが口に広がる感じで、甘いというか旨い。塩味のある食品に混ぜると塩辛さが丸くなって全体がまとまるので、味噌や醤油、佃煮など、実は日常的な食品にも使われているんですよ。保湿や炎症を和らげる効果もあるので、昔から化粧品にも数多く使われています。また薬用植物は健康食品や医薬部外品、ペットフードでの需要も高く、非常に大きなマーケットがあります。
Y.H Y.H
薬用植物は、現在もそうですが、我々が研究を始めた当時から大部分を海外からの輸入に依存していて、甘草に至ってはほぼ輸入品です。輸入品の多くは自生している甘草(野生品)を採取したものなのですが、どんどん採れなくなっています。中でもモンゴルの産地は痩せた土壌なので、掘り尽くしてしまうと植生が回復せず、採取跡地は砂漠のようになっています。モンゴルでは現在、野生の甘草は採取禁止で、中国も採取量を絞っているため、日本の製薬メーカーは原料の確保に焦りを感じています。地球環境の保全を考えると、野生品を頼りにするやり方には疑問を感じますし、甘草のニーズは今後も減ることはないことを考えると、「栽培」というサステナブルな方法で供給していく必要があると思うのです。
S.S S.S
しかし、野生品がメインの甘草を栽培するには、課題が山積みで、中でも最大の壁となったのが苗づくりでした。種を蒔いてもたった3割程度しか発芽しないのです。これでは種や資材の7割も無駄になる上に、発芽した3割を手作業で選り分けながら植え付けなければならない。私たちが目指しているのは、事業として成立する大規模栽培。大型の農業機械を使った栽培ができなければあまりに非効率で成り立ちません。実はこれまで甘草を栽培しようとした企業は数多くあったのですが、この非効率さをクリアできず手を引いていきました。でも「栽培」というサステナブルな方法を確立するため、そして、甘草の大きなニーズに応えられる大規模農業化を実現するためにも、ここを何とかクリアしなければいけない。そんな想いで試行錯誤しながら、ついに波多江くんが苗を効率的に作る方法を見つけてくれたのです。その他に土壌改良、植付方法、除草や収穫方法、この紙面では語り尽くせないほどの試行錯誤を繰り返してきました。10年以上の時を経て、甘草の大規模栽培の道がついに開けたのです。
Y.H Y.H
北海道で甘草を栽培し、トン単位の規模で毎年安定的に収穫できるのは、ほとんど知られていません。一般的な農業のやり方で栽培するカタチが確立できたので、これからは減農薬や有機栽培など、よりサステナブルな農業を確立したいと思っています。

■ 甘草栽培の様子
王子が開発した甘草の大規模栽培は、6月頃に苗を育てて、7月に植えて翌々年の秋に収穫する足掛け3年サイクル。
圃場を3グループに分けて植栽年を変え、植栽→管理→収穫という3年のローテーションで回している。収穫1週間前に地上部を切除し、根を機械で回収する。
使用する農業機械は市販されているものを使っているが、甘草の収穫に合わせてカスタマイズされている。

社有林は多彩な機能性植物が自生 ヒトリシズカは高級化粧品に採用

甘草のほかにどのような薬用植物を扱っているのですか?

Y.H Y.H
甘草の他に、センキュウやカノコソウ、オタネニンジン(チョウセンニンジン)などを栽培検討しています。どれも安定的に栽培していくには課題がありますが、課題解決に向けて日々取り組んでいます。あと、すでに化粧品に配合されて10年近くになるのがヒトリシズカです。ヒトリシズカは、栽培ではなく、社有林の半日陰になる環境に自生している薬用植物。社有林にはさまざまな薬木や薬草、機能性植物が自生していて、こうした資産を有効活用するのも、我々の当初からの事業コンセプトです。ヒトリシズカは、葉と茎から抽出されるエキスに非常に高いうるおい成分があり、アルビオン化粧品様で最高級化粧品シリーズに採用されています。
S.S S.S
社有林内に眠る機能性植物の探索を目的として、定期的に北海道内の社有林の資源調査を行っています。その中で複数の社有林でヒトリシズカの群落を発見したことが、製品化に繋がりました。ヒトリシズカは地上部を収穫するのですが、勢いのある地上部を切るとだんだん弱ってしまいます。でも野生品を採取するという方法においてもサステナブルである必要がありますから、毎年ではなく、年ごとに採取する群落をローテーションし、さらに一つの群落の中で採る場所を変えながら収穫しています。採ってからの時間を確保することで、また生えてくるんですよ。
Y.H Y.H
すでにヒトリシズカは商用レベルで活用されていますし、社有林の豊富な薬用植物資源にさまざまなお客様が興味を持ってくれています。「こんな植物がほしい」というお話もいただいているので、第2、第3のヒトリシズカを作っていきたいと思っています。そのために、現在も社有林の植生を調査して回っています。

■ 社有林に自生する機能性植物の展開例
社有林には下草として様々な薬用植物が生えており、中でも「ヒトリシズカ」のエキスは希少性の高い美容成分として、スキンケア製品*に配合されている。
* 株式会社アルビオン「EXCIA(エクシア)」シリーズ

世の中に必要となるものを見据え 原料から取り組む「王子のDNA」

農業や作物の栽培というと、これまでの王子グループの事業と印象が異なりますね。

S.S S.S
農業をしたり医薬品を作ったりというと、王子らしくないと思われるかもしれません。でも、むしろその逆なのです。王子はもともと紙の原料である木を育て、森を育み、そして近代製紙技術の開発に取り組み、日本の経済発展を支えてきました。原料は石油を採取するのではなく、生物をもとに自ら作り、製品まで一気通貫に行っていたし、原料作りもサステナブルな形で行うということを100年も前の先輩たちからやっている。それこそが王子のDNAだと思うんです。
Y.H Y.H
また、王子グループには、設備資源として自社工場のボイラーの熱や蒸気、廃水処理技術があり、さらに水力やバイオマス発電といったエネルギー資源も持っている。さらに、農業用の紙資材もある。例えば苗作りで使っているペーパーポットの原紙も王子エフテックスが製造しています。また、このペーパーポットは一般的な農業機械で使えるので、今後の展開として、農家さんに栽培委託することも容易ですし、そうした展開まで踏まえて研究しています。製紙工場の既存インフラを使うことで、さらなる効率化が期待でき、結果として国産甘草の競争力も上がっていくと思います。つまり、資源としても技術としても王子はアグリビジネスと親和性があるのです。これだけの規模でアグリビジネスの可能性があるのは、王子グループだからこそと言えると思います。
S.S S.S
私たちは新規事業に10年という時間をいただき、資金をいただき、人財もいただいてやってきました。ここまでやれる体力や度量があるのも王子の強みだと思います。渋沢栄一が最初に製紙事業を手掛けたときもそうですが、社会に必要とされるものを先駆けて考え、そのために5年、10年という単位でしっかりと育てるということは、王子だからできることだと思います。経営理念のとおり、メーカーは革新的な価値を創造しなくてはいけない。薬用植物にも将来の社会に貢献するさまざまな可能性があり、それを見つけて広げていくのが我々の仕事だと思っています。「作る」という技術的な課題は徐々に改善していますが、それはメーカーとしてはスタート地点に立ったに過ぎません。技術を開発し、先行する者としてのプライドを持ち、作ったものに対していかに価値を高め、どのように世の中の役に立つものにしていくのか。そうした目的のためにいろいろと取り組んでいくのが、我々の仕事であり使命だと思っています。

■甘草(カンゾウ)関連取扱商品と加工品への展開例

10年の苦労を乗り越えられたのは この巡り合わせがあったからこそ

お二人はふだん、どのような関わり方でお仕事されて いるのですか?

S.S S.S
仕事上は上司と部下ですけど、収穫には私が張り付いて、洗浄・乾燥はHくんが見るというやり方なので、収穫部門と洗浄部門として連携している同僚みたいな感じです。あとは飲み友達ですね(笑)。お互いお酒の趣味が近いので、プライベートではちょくちょく楽しんでいます。
Y.H Y.H
でも、研究のシーンでは上司と部下という関係になりますね。甘草の栽培で何か課題が出てきた場合、Sさんが全体を俯瞰しながら問題箇所を示してくれて、それに対して私から解決策を提案し、Sさんが最終判断をしたり、助言をいただいて再度、私の方で検討したり、といった進め方をしています。
S.S S.S
私は立場として、全体を見ながらバランスを取る役割だと思っています。どこか部分的に特化して取り組むと、必ずバランスが崩れて全体として成り立たなくなるからです。全体を見ながら、ちょうどいい中庸のところで極大値を持ってくるようにするのが大切だと思っています。その意味においても、Hくんは課題の抽出力が的確で、毎回とてもいい提案をしてくれます。
Y.H Y.H
提案した内容に対してSさんとディスカッションするんですが、そのときにSさんがよく口にするのが「それはこの課題解決に対して本質的なことなの?」という問いかけです。つまり、その場しのぎのやり方になっていないかということですよね。
S.S S.S
そこに自信を持って「本質的です!」と答えたのであれば、あとは任せます。そこは後輩や部下を信じて任せるべきだと思いますし、その結果に対して責任を負うのが私の役割だと思います。その結果としてHくんがいいものを返してきてくれたので、今に至っているのだと思います。
Y.H Y.H
提案したことをちゃんとやり切る、というのは大変でしたけどね(笑)。
S.S S.S
最後までやり切る、という力がHくんにはあるよね。本当にかじりついて、「よくそこまで考えたね」「そんなところまで調べたの?」みたいな話も持ってきてくれるし、そこにオリジナルのアイデアを加えて問いかけてくる。それを考えるHくんも答える私も共に大変ではあるけれど、業務としてだけでなく、研究者としてこのディスカッションは本当に楽しくて充実したものだと感じています。こうしたやり取りを経てきたから、現在のレベルまでお互いを高めてこられたのだと思います。
Y.H Y.H
研究者の先輩としても、Sさんはすごいなと思いますよ。私からアイデアを投げまくっても、いつも的確な回答やアウトプットが出てくるんです。そのアウトプットがあるおかげで、それを確かめたり見直したりしながら、次のステップに進めていくことができます。
S.S S.S
ここまで到達できたのは、この10年間、Hくんがともに歩いてきてくれて、いろいろな課題を共有できて、解決に向けて的確に動けて、答えを出してきてくれたおかげです。私一人では絶対にできなかったし、Hくんだけでもできなかっただろうし、Hくん以外の人が来ていたらできていなかっただろうし、この巡り合わせに感謝しています。
Y.H Y.H
実際、これまで結構つらいこともいろいろありましたよね。収穫に2カ月半もかかったときは、10月末や11月初旬なので、朝は氷点下だし雪もチラつくし。農機に甘草が絡まって10m走るごとに止まるので、ぬかるんだ畑の中を歩いては、這いつくばって甘草を引きはがすのを繰り返し、それも土日なく続けてやり切りましたからね。
S.S S.S
実は、途中で投げ出そうかと思ったこともあったんです。でも、「君たちの考え方や価値観は間違っていないんだから頑張ろうよ」と応援してくれた人たちがいたから、何とか続けてこられた。Hくんもその仲間の一人で、ある意味、心の支えだったし、お互いに勇気づけ合って乗り越えてきた、いわば「戦友」みたいな感じですね。
Y.H Y.H
今後、漢方薬がなくなることはないし、薬用植物は日本の高齢化とともに、さらに必要性が高まるでしょう。その多くに使われる甘草をここまで大規模に栽培できると言いますか、更なる規模拡大にも追従できる栽培技術を確立しているのは、世界でも王子だけだと自負しています。今後も、先駆者として、常にさらに新しい価値やオンリーワンのものを作っていきたいと思っています。
S.S S.S
冬は零下30℃になるし、住むだけで言えばしんどい場所ですけど、ここでの仕事にはそれに代えがたい魅力がある。将来性もあるし、やっていることも面白い。新たな価値の創造を積み重ねながらブルーオーシャンに漕ぎ出し、薬用植物事業をさらに広げていきたい。王子がこれからも強い企業であり続ける一翼になりたいと思います。

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